満場一致のパラドックス - 全員が賛成したら、それは間違っている
いきなりですが、未解決事件の捜査ファイルを見てください。
発生期間
1993年 - 2008年
発生地域
ドイツ / オーストリア / フランス
概要
3カ国、40件以上の犯罪現場から同一女性のDNAを検出。殺人、強盗、窃盗、車上荒らし。犯罪の種類に一貫性なし。2007年、女性警察官射殺事件でも同一DNAを確認。
捜査規模
捜査員100名以上 / 予算200万ユーロ(約3億円) / 捜査時間16,000時間
特記事項
★ 防犯カメラに容疑者の姿が映ったことは一度もない
捜査官として、あなたの推理を選択してください
推理を受理しました。
真相は記事の後半で明かします。その前に、この謎を解くカギとなる「ある法則」の話をさせてください。
1謎を解くカギは2000年前にある
古代イスラエルに「サンヘドリン」という最高法廷がありました。71人の裁判官で構成され、死刑を含む重大事件を裁く機関です。
ある死刑裁判で、71人の裁判官が審議を行いました。結果、全員一致で「有罪」。
あなたが裁判長です。この被告人に判決を下してください。
22016年、科学者が数学的に証明した
この古代の知恵を、現代の科学者が数学的に証明しました。
2016年、オーストラリアのアデレード大学の物理学者デレク・アボット(Derek Abbott)らは、英国王立協会の学術誌に論文を発表。この現象を「満場一致のパラドックス(Paradox of Unanimity)」と名付けました。
これが元ネタです
アボット教授はこの研究をTED-Ed動画「Should you trust unanimous decisions?」で解説しています
論文というととっつきにくいので、内容を具体例で説明させてください。
銀行強盗が発生しました。警察は10名の目撃者を集め、容疑者の写真を一人ひとりに見せて行きました。目撃者が「この人です」と同じ人物を指さしたとき、何人一致が最も信頼できると思いますか?
目撃者10人中、何人が一致したとき最も信頼性が高いと思いますか?
3さて、最初の謎の答えです
ここまでの話を踏まえて、冒頭の「ハイルブロンの怪人」の正体、わかりましたか?
15年間、3カ国、40件以上の犯罪現場で、同じ女性のDNA。
もしあなたが「東欧マフィア」や「シリアルキラー」を選んでいたら、残念ながら不正解です。「捜査関係者」も違います。
正解:犯人は存在しなかった
2009年3月、ドイツ警察の公式発表
ごめんなさい。選択肢になかったですよね。でも、これが真相です。
2009年3月 真相発覚
きっかけは「綿棒の交換」
ある焼死体の男性から「あの女」のDNAが検出されました。しかし、別の綿棒で採取し直すと、DNAは検出されなかった。
真相はこうでした。犯罪現場でDNA採取に使われていた綿棒は、すべて同じ工場で製造されていました。そして、その工場で綿棒を包装していた女性作業員のDNAが、製造過程で付着していたのです。
綿棒は殺菌処理されていましたが、殺菌で殺せるのは細菌やウイルスであって、人間のDNAは破壊されません。
40件以上の犯罪現場で「同一人物のDNA」という完璧すぎる一致。それは犯人がいる証拠ではなく、採取システムに欠陥がある証拠だったのです。
4伝説の経営者たちも知っていた
ここまで法廷や犯罪捜査の話をしてきましたが、ビジネスの世界でもこのパラドックスを理解していた人たちがいます。
カードをタップして、彼らの言葉を見てみてください。
アルフレッド・スローン
GM CEO (1923-1956)
タップして名言を見る
「全員一致?では異なる見解を引き出す時間が必要です。検討を次回まで延期しましょう」
ピーター・ドラッカー
経営学の父
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「意思決定の第一原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである」
ウォルト・ディズニー
ディズニー創業者
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幹部全員が「素晴らしい」と言ったプロジェクトは、進めなかったという
「イエスマン」だらけの組織では、正しい判断ができない。これは古代ユダヤ人も、現代の物理学者も、20世紀の名経営者も、みんな同じことを言っているわけです。
参考: Drucker Studies
5あなたの組織を診断
最後に、あなたの組織をチェックしてみましょう。
各項目について「ある」か「ない」かで答えてください。
会議で上司が先に意見を言う
あなたの組織でありますか?
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「出来すぎた話」を疑う
2000年以上前の古代ユダヤ人から、現代の物理学者、伝説の経営者まで。時代も分野も異なる人々が、同じ結論にたどり着いています。
"Too good to be true"
出来すぎた話には裏がある
全員が賛成している。証拠が完璧に一致している。誰も反対しない。
それは「正しい」サインではなく、「何かがおかしい」サインかもしれません。
私自身、コードレビューで誰も何も言わないときは「本当に見てくれた?」と思うようになりましたし、ミーティングで全員がすぐ賛成するときは「何か見落としてないか」と立ち止まるようになりました。
次に「全員一致です」と聞いたとき、あなたはどうしますか?


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